死霊術師の弟子③(1/4) 遠い日の茉莉花
花の香りがした。
どこか甘いような、優しく包み込むような不思議な香り。
どこか懐かしく、どこか切なく、胸を締め付けるような香り。
これは……そう、ジャスミンの香りだ。
子供の頃、よくお母さんと一緒に花を摘んできたっけ。
それで眠れない夜によくお母さんが暖かいジャスミンティーを淹れてくれたんだ。
飲みやすいように蜂蜜を入れて甘くしてくれて……。
暖かいジャスミンティーを口にして、顔を上げるとそこではお母さんが優しく微笑んでくれていた。
そして反対隣にはお父さんも居て、三人で眠れるまで満天の夜空を見上げてたんだ……。
あの時わたしは、どうしようもないほど満ち足りて幸せだったんだ……。
①
その時、わたしの見つめる世界がモノトーンに変わった。
声にならない慟哭と絶望が私の心を黒く染め上げていく。
わたしの前から無残に消え行く友人……。
わたしはガックリと膝を付く。
別に信じていたわけではない。だけど、裏切られた。
まさか、こんな悲惨で救いのない結末を迎える事になるだなんて誰が想像できただろうか。
ほんの数分前までわたし達は取り留めのない談笑に身を委ねていたはずなのに。
そう、ほんの数分前までは……。
あの無情な惨劇さえ起きなければ、わたしは今でも笑っていられたのだろう。
誰かを、何かを憎むこともなくオーリドンに戻りいつも通りの日々に戻ることが出来たのだろう。
そう、すべては”あの一言”から始まった。
……
……
……
その日、私はダレンの誘いでロスガーを訪れた。
数日前に魔術師ギルドから届いた一通の手紙。
それはオルシニウムへの招待状だ。
ギルドハウスで話題に上がるまですっかり気づくことのなかったその手紙は、私をオルシニウムへと導いた。
今思えば、この時点ですべては仕組まれていた事だったのだろう。
そう、すべての発端はこの手紙だ。
この手紙さえなければ、私もダレンも”あのような悲劇”を迎える事はなかったのだろう。
私とダレンは手紙の招くままオルシニウムの地を訪れ、ギルドの扉を叩いてしまった。
その後、ギルドの支部長と何やら会話を交わしだすダレン。
これは長くなりそうだ、と溜息をひとつ付き、窓から外を覗き見る。
ちらちらと舞う雪と石畳で作られた荘厳なオルシニウムの町並みは確かに幻想的であれど、それ以上の魅力は感じない。観光地として初めて訪れるには良いが、実際にそこで暮らすとなると別の話になるだろう。
私はそんな取り留めのない事を考えながら、白い息を両手に吹きかける。
何より、ここは寒い。
私は寒さが大の苦手であり、実際、今この時この瞬間でさえ凍死するんじゃないかとさえ感じられる。……多分錯覚だろうけど。
正直、こんな場所に街を築き、この地に固執するオーク達の気が知れない。
早くオーリドンに戻って暖かいハーブティーでも飲みたい。それが私の本音だった。
チラリとダレンと支部長の方へ視線を向ける。
何やら交代要員とか、準備とか、そんな言葉が聞こえてくる。
これはまだまだしばらくかかりそうだ。そう思い、ため息がまたひとつ。
はき出された息は相変わらず白い。
しばらくしてようやく話を終えたダレンが戻ってくる。
「遅いですわよ」そう彼を小突き、悪態を付く。
ダレンは困ったように笑っていた。
その後、スカラーの宿屋に向かいメンバーと合流する。
なんでもここで日雇いの依頼を受けられるという。
魔術師ギルド員である自分には関係がないと言ったら、何かめぼしい遺品が見つかるかもしれないと返答された。
そう言われると返す言葉がない。だけど、正直それは悪い条件ではなかった。
実際にロスガーは未開に近い土地。
もしかすると何かレポートとして提出できそうな遺品がるかもしれない。
そんなささやかな希望を抱いて、私は彼らに同行した。
②
……前言撤回。
ここには、すくなくとも私が今回向かった所では思っていたほど目ぼしいモノは見つからなかった。
見つかったものと言えば、この地の蛮族、リークルの族長が後生大事にしていたボロい杖くらいだ。
依頼も散々なものばかりで、ただでさえこの寒さの中で人探しをさせられ、水蒸気トラップを調べさせられ、挙句の果てには気色悪い生肉集めと密漁者退治。
しかも後者は密猟者に混じって巨大なエシャンテにまで襲われた。
本当に踏んだり蹴ったりである。
そもそも私は魔術師ギルドの学徒であり、こんな肉集めやら戦いやらを行う事自体がおかしいのだ。
私は依頼を報告すると早々に帰宅準備を始める。
こんな場所、最初から来るべきではなかったのだ。
そんな後悔を口にし、荷物をまとめていると、不意にダレンが呼びかけてきた。
「実は少し前まで私はここの支部のお世話になっていたのですが、移動することになりまして……」
「そうですか」
ギルド事情になどさほどの興味もなく、ダレンの話を適当に聞き流す。
グループメンバーでダレンと私を除いて唯一この場に残っていたミーナが
「あら……魔術師ギルドの方も忙しいのですね」
まるで他人事のようにニコニコと微笑みをダレンに向けている。
「それで……その……」
「用件だけを述べてください!私は寒いので一刻も早く本土へ帰りたいんです!」
もじもじと要領の得ない彼の言葉に若干の苛立ちを覚え、少し口調が強まる。
だが、もしかしたら苛立ちを覚えたのは要領を得ない彼の口調そのものではなく、正直何か嫌な予感を感じたからかもしれない。
「代わりにオルシニウム支部でお仕事をしてくださったりはー、そのー」
彼のその言葉に耳を疑う。いや、嫌な予感はしていたけどこれは……。
そんな私を切実な表情で見つめるダレンと(頑張れ!)と応援するようなジェスチャーを爽やかな表情と共に送ってくるミーナ。
思考が追いつくまでの数分間、私の頭の中はいろいろな思考と考えが駆け抜けていく。
ダレンはオルシニウム支部で働いていたんだけど移動する事になった。
だけどオルシニウム支部には人員不足で身代わりの生贄……もとい交代要員が必要。
それで彼は自身の代わりにこの極寒の地獄に差し出す生贄に私を選んだ。
……ん?
……私を選んだ!?
そこまでの思考が追いつくと同時に私は思わず声を荒げる。
「どういう事ですの!?嫌ですわよ!こんな辺鄙な土地で過ごすなんて!」
全身を持って彼の提案を全不定する。
寒いし、仕事もハードだし報酬安いし、寒いし、周りオークだらけだし、寒いし、街は迷路みたいだし。
何より、寒いし!!!
「人員不足なんです皆来たがらないので!もう来ちゃったことですし!ね!」
しかし、そんな私を押し切ろうとするように次から次へとダレンは言葉を紡いでいく。
ずずいと勢いよく迫ってくるダレンに気押される私。
「そ、そういう貴方はどちらにいくつもり!?
こんな場所にわたし一人残していくって本気なの!?」
「これもきっと良い修行になりますよ!」
そう言いながら背後の扉へ扉の方へとゆっくり後ろに後ずさるダレン。
そして扉に手をかけると
「……というわけで頼みましたよトリスさん!」
そう言葉を残して扉の向こうに消えていく。
「ちょ、ダレンさん!?」
「私は時間がないもので……申し訳ありません」
困惑するわたしを他に去り際に残したダレンの小さな言葉。
それはまるで何か成し遂げなければならない事があるとでも言ってるようにも感じられた。
そして何より去り際に見た彼の表情はどこか怯えと決意のようなものを感じ取れた。
……だけど……。
……だけど、そんな事は私を犠牲にする理由になんてなっていない!!!
あんな一方的に用件だけ伝えて、押し付けて去っていくとか正直ありえない。
わたしだって鬼じゃない。せめて事情があるなら言ってくれれば、もしかしたら快く引き受けたかもしれないのに……いや、やっぱりそれはないな、うん。
-……私は時間がないもので……-
そう語った彼の様子は確かに気になるものの、だけどそれ以上に私の中にはどうしようもない絶望が心身ともに支配していく。
こんな寒くて仕事がきつくて果物もない、そして脳みそ筋肉なオークだらけの土地で人員不足のギルドに扱き使われる……?この私が……?
そこまで想像するだけで私の心は、恐怖と絶望に打ちひしがれガックリと膝を突く。
世界がモノトーンに……絶望の色に染まっていくのを感じた。
まさか、こんな悲惨で救いのない結末を迎える事になるだなんて誰が想像できただろうか。
ほんの数分前までわたし達は取り留めのない談笑に身を委ねていたはずなのに。
そう、ほんの数分前まで……。
この無情な惨劇さえなければ、わたしは今でも笑っていられたのだろう。
誰かを、何かを憎むこともなくオーリドンに戻りいつも通りの日々に戻ることが出来たのだろう。
「うわああああん!恨んでやるダレーン!!!」
ありったけの怒りと恨みを内包した怨嗟の叫びを上げる。
酒場の人たちが何事かとこちらを見たが、面倒事になると察したのかすぐに視線を逸らした。
唯一ミーナだけがニコニコと爽やかな笑顔を送ってくいたが……いや、少し対応に困っているように見えなくもないような……。
「さ、最悪よ……なにこれ……最悪すぎるわよ……」
「オ、オーシマー文化は粗暴なように見えて繊細な所もあります。ここはお風呂も気持ちいいですし……」
がっくりと膝を付きうつむくわたしを必死にフォローしようとするミーナ。
「ねぇ……ミーナさん……」
小さく言葉が漏れた。
「どうじよ”う”……う”わ”あ”あ”あ”あ”ん!。
わだじ、ごん”な”場所でいぎでいぐなんで、絶対む”り”ぃ……う”わ”あ”あ”あ”ん!」
まるでダムが決壊するかのように感情が溢れ出す。
雪国なんて私が一番苦手で大嫌いな土地で、しかもそこで一人知り合いもいない魔術師ギルドに取り残されるなんて正直絶望以外の何者でもない。
そんな涙と鼻水でグチャグチャになった私の表情を見て、一瞬顔を引きつらせるミーナ。
「……なれれば都、という事場もありますし……。
ここで成果をあげて早々にギルド内での地位を固めるのも手かと」
しかし、そんな適切なアドバイスを送り、私の頭をポムポムと撫でた。
「うぅぅぅ……よりにもよってこんな寒い地域…どうじであっだがい”場所じゃないのよ”ぉぉぉ」
「もしかしなくとも、寒い場所だめですこと……?」
そう尋ねるミーナの眼差しは、同情の色を宿いている。
「トリス様」
ミーナは私の両肩をしっかり掴むと自身に向きなおす。
その表情はいつになく真面目なもので、私にどうすべきかという道標を標してくれた。
「急いで書類を書きましょう。凍りつく前に!」
「わーん!それ解決法になってないー!」
それが出来たら苦労していない……。
「だって逃げ出すわけにもいかないでしょうし……。でしたらせめて一日でも早く現状をよくする事をかんがえないと……」
これは困ったと言わんばかりの表情を浮かべるミーナ。
しかし、今思えば、最後まで一緒に悩んでくれたミーナには感謝を述べるべきだったのかもしれない。
「その、手伝えることは手伝いますから……!」
私の手を力強く握り、私のほうをしっかり見据えるミーナ。
この時、わたしにはミーナが救いの女神様か何かのように感じられた。
そうだ、こんな場所で立ち止まってどうするの、トリス……いえ、ヘルメス!
陰険性悪根暗ダンマーに嵌められた位で泣いてるような私じゃないでしょう!
「う”ぅ”…ぞうだね”……わたし、泣いでる場合じゃないもんね……」
グシグシと涙を拭う。
何より、こんな絶望的な状況でも手伝ってくれると約束してくれたミーナに応える為にも、これ以上泣いてる姿を晒す訳にはいかない。
「……霜焼への治癒魔法とか!」
にっこりとした笑顔でお手伝いできる事を伝えるミーナ。
「わーん!それあまり役にたたなーい!」
再び絶望が胸いっぱいに広がった気がした。
……
……
……
「でも、やるしかありませんよね……。そう、ここで泣いてるだけじゃ始まりませんもの!」
散々な扱いをされていたけれど、改めて決意を固め今度こそ涙を拭う。
一通り泣いてスッキリしたわけではない、決して。
そう、私は魔術師なのだから。
寒さが敵だと言うのなら、魔法でそれを克服するまで。
私にとっての教本にも、『魔法は生活を便利にするもの』とある。それならば私もその力を活用しこの寒さを克服するまでだ。
そのために、まずは……
「ミーナさんは、身体が温まる魔法とかご存知ありませんこと?」
まずは詳しい人に聞いてみるのが一番手っ取り早い。
私は魔術師だけど、別に日常生活に役立つ魔術を研究したいわけではないのだから。
ミーナは人差し指をあごに当て、うーん……と少し考え込んだ後。何かを閃いた様にこうアドバイスした。
「魔法ではありませんけど。……酒を飲めば一時は暖かくなりますが……」
それは名案に聞こえた!
確かに北国の衛兵もよく「こんな寒い日は暖かい蜂蜜酒でも飲んでしっぽりやりたい」なんて言っているのを耳にする。
それならば、私が取る行動はただひとつだけ!
「マスター!ここにある蜂蜜酒で一番身体があったかくなるモノをください!」
年齢的にもお酒はNGではあるけれど、この際そんな事は言っていられない!
自身の命がかかっているのだから。今後凍死するかどうかの瀬戸際であれば年齢制限とか法律とか知ったことではない!!よい子も悪い子もこのアホ魔術師のマネは絶対しないでください
「……その後は一気に冷え込むのでやめた方がいいとだけ……あら?トリス様?」
後ろでミーナが何かを言っているような気もするけど、今はそれよりも寒さに負けない体を作ることが最重要事項だ。
私はマスターに渡されたハチミツ酒に満たされたビンに口を付けると一気に仰ぐ。
……次の瞬間、地面と天井が逆さになった。
③
朦朧とする意識の中、目の前に広がっていたのは一面に広がるジャスミンの花。
夜風に混じり白い花が舞う。弁鼻腔を擽るのは懐かしい香り……。
空を見上げれば、一面を覆いつくす満面の夜空。
不意に横を見ればわたしの両隣には父と母が佇み、優しい微笑を向けてくれている。
なんだか、とっても幸せだ。
ずっとずっと求め続けてきたモノをようやく得られたように思えたから。
この手に感じる温もり、両親がくれる暖かな温もり。
わたしはその手をしっかり握る。
今度こそ離さないように。
今度こそ逃げ出さないように。
しかし、わたしの願いに反し、崩れていく視界。
ゆっくりと重たい瞼を開けるとそこに星空の輝はなく、小さく燃える炎の光だけが見える。
そして光の前に佇む一人の人影。
少しずつぼやけた視界が形を帯びていく。
現実が輪郭を露にするにつれて、わたしの望んだ願いは泡沫のように色を薄めていくのを感じた。
私は繋いだ手を強く握る。今度こそ失いたくない。そう強く願いながら……。
「……お母さん……」
小さく零れたのは、願いの欠片。
そこに在ってほしいと願ったわたしの願いの断片。
わたしが見た夢、それは幼少時代の思い出。
遠く遠く、まるであの夜の星空のように手の届かないほど遠くに行ってしまったわたしの願いだ。
視界に映るのは優しい微笑み。
彼女はニッコリと優しい微笑を私に向けてくれていた。
「ミーナさん……?」
私は彼女の名前を口にする。
これが現実である事を確認するように。
母は泡沫の夢のように消えてしまった事を実感するように。
「はい」とニッコリ微笑むミーナ。
不意に感じたのはこの手に感じる温もり。まるで夢の残照のようなそれに目を向ける。
必死に握り締めた先にあったのはミーナの手。
気が付けば必死に決して離すまいと言わんばかりに握り締めてしまっていたようだ。
わたしは慌ててバッとその手を離すと、なんとも言えない羞恥心が胸の中をこみ上げてくる。
私はズキズキと痛む頭を押さえながらゆっくりと身を起こすと周りを見回した。
石造りの堅牢な壁と天井、薪をくべられた暖炉の火が暖かく石造りの部屋を照らしている。
「ここは宿の二階ですよ。お酒を勧めてしまってごめんなさいね」
申し訳なさそうに状況を説明するミーナ。
「夢、だったんですね……」
現実を受け入れ、私は小さくため息をつく。
だけど、ひとつだけ。たったひとつだけ確かな香りとして存在を感じたのはジャスミンの香り。
夢の名残だとばかり思っていたのに、それは明確なものとして私に存在を訴えている。
エンドテーブルに目をやると、そこに置かれたティーポットから香っているようだ。
「ジャスミンのお茶に蜂蜜を混ぜた物です。温まりますよ」
私の視線に気づいたのか、ミーナはニッコリと微笑むとティーポットからカップにお茶を注ぐ。
ジャスミン特有の芳醇で優しい香りが石造りの部屋を満たしていく。
渡されたティーカップに口を付けると懐かしい味と香りが身体の中に広がっていく。
優しいジャスミンの香りの中にほんのりとした蜂蜜の甘さを感じる。
それはかつて母が淹れてくれた物とよく似ていた。
身体だけではなく、心まで温かくなっていくのを感じる。
顔をあげるとそこにはニコニコと優しく微笑むミーナの姿。
なんだか懐かしくて、暖かくて、忘れかけてしまった大切なものを彷彿させてくれる。
決してもう手の届かない場所に行ってしまったと想ったのに。
だけど、同時にそれが自分の弱さだと言う事も痛感させられた。
どれだけ連想させようとも仮初に過ぎないのだから。
決してわたしの願いはこんな家族ごっこではないのだから。
……だけど……。
……だけど、少しだけならこの日和見にもたれ掛るのも悪くはない気がした。
わたしはカップのジャスミンティーに口を付ける。
暖かくて、懐かしくて、だけどわたしの大好きだったあの味とは少しだけ違っていて。
それでも、その温もりはどこまでも優しく、暖かく感じられた。
④
ところで、何故彼女は私にジャスミンティーを出したのだろうか。
どうやら私は寝言の中で「ジャスミンの匂いれふねうぇひひ~」とか言ってたらしい。
それを知った私は思わずガバッと布団に潜ると、身悶えた。
……死にたいほど恥ずかしい。
「あら、私は最初から何も見ておりません。
慣れぬ酒精で変な夢でも見たのでしょう」
いたずらっぽくウィンクするミーナ。
彼女は、私の様子に安心したようで、ゆっくりと部屋の扉に手をかける。
「……ミーナさん」
私は布団の中から頭だけを出して、ミーナを呼び止めた。
「迷惑かけましたわ、お茶もご馳走様でした」
うまくまとまらない思考を必死に言葉にする。
「また淹れて頂けたら嬉しいです……」
そこまで言って色々思い出し羞恥心が全身を支配し、思わず布団に潜り込む。
「……おやすみなさい、ミーナさん」
小さく小声で呟く。
聞こえたのかどうかはわからないが、ミーナは
「お休みなさい、トリス様。良い夢を」
そう言葉を返し、今度こそ部屋を後にした。
背中越しに扉の閉まる音を感じ、私は深いまどろみに身を任せた。
……後になって聞いた話だけど、どうやら私はかなり悪酔いするタイプのようで
「ダレンのやろ~みへろよ~!!わしゃくしがここを脱出したあひゃつきには、けっちょんけっちょんにして家来にしてこき使ってやるんれふからぁ~…うぇひ、うぇひひ……
(訳:ダレンの野郎見てろよー!!私がここを脱出した暁にはケッチョンケッチョンにして、家来にして扱き使ってやるんだからー……ウェヒ、ウェヒヒ……)」とか大声で騒いで酒場の人達をドン引きさせていたらしい。
……忘れる事にする。
ちなみに私をスカラーの宿2階までは、ミーナがお姫様抱っこをして運んでくれたらしい。
この後、私はしばらくミーナの顔を直視する事ができなかった……。
- 最終更新:2017-06-27 02:06:51